緑内障は「すぐに失明する病気」ではない

緑内障が「失明する病気」と知って不安を感じる方は多いと思いますが、進行のスピードは人によってもタイプによっても大きく異なります。急速に視力を失う急性緑内障発作のような例外を除けば、治療で進行を遅らせれば多くの方が生涯にわたって視野を保てます。失明までの一般的な目安と、進行を遅らせる治療の現実をこの記事で整理します。

緑内障は「すぐに失明する病気」ではない

緑内障は「すぐに失明する病気」ではない

緑内障の進行スピードを正しく知ることが、診断後の治療と向き合う出発点になります。

未治療でも失明に至るまでには長い時間がかかる

「緑内障=失明」と結びつけて考える方は少なくありませんが、緑内障の進行は非常にゆっくりです。視野障害の進行速度には個人差がありますが、未治療のまま放置した場合でも、診断から失明に至るまでには一般的に20〜30年程度の期間がかかります。

なぜこれほど時間がかかるかというと、緑内障は視神経が少しずつ傷んでいく病気だからです。視神経には約100万本の神経線維がありますが、一部が傷んでもすぐに見え方に影響が出るわけではありません。脳が残った神経線維からの情報を補完するため、初期の段階では視野の欠けに気づかないのです。

この「気づきにくさ」は不安をあおるものではなく、裏を返せば進行が緩やかだからこそ、治療で十分に間に合うということを意味しています。

緑内障は日本でどのくらい多いのか

日本緑内障学会が岐阜県多治見市で実施した大規模な疫学調査「多治見スタディ」によると、40歳以上の日本人における緑内障の有病率は5.0%です。つまり40歳以上の20人に1人が緑内障にかかっています。年代別に見ると、40歳代で2.2%、50歳代で2.9%、60歳代で6.3%、70歳代で10.5%と、年齢が上がるほど有病率は高くなります。

さらに注目すべきは、この調査で見つかった緑内障の方のうち、それまでに緑内障と診断されていた方は全体のわずか1割にすぎなかったことです。9割の方が自分の病気に気づかないまま日常生活を送っていました。これは緑内障の進行が緩やかで自覚症状が出にくいことを示しています。

参考:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)

緑内障で視野が失われていく仕組み

緑内障で視野が失われていく仕組み

緑内障は「眼圧が高い病気」と思われがちですが、日本人の緑内障の実態はそれとは異なります。

日本人の緑内障の多くは眼圧が正常範囲内で起こる

多治見スタディの結果、日本人の開放隅角緑内障のうち約92%は眼圧が正常範囲内(21mmHg以下)で起こる「正常眼圧緑内障」でした。眼圧が正常だからといって安心できるわけではなく、視神経が眼圧に対して脆弱な場合や、血流の問題などが関わって、正常範囲の眼圧でも視神経が徐々に傷んでいきます。

つまり、「眼圧が正常」と言われても緑内障のリスクはあるということです。眼圧だけでなく眼底検査や視野検査で視神経の状態を直接調べることが、緑内障の発見には欠かせません。

参考:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)

視野はどのように欠けていくのか

緑内障による視野障害は、目の端のほう、特に鼻側の上から少しずつ始まるのが典型的なパターンです。中心の見え方が保たれている間は読書やテレビ視聴に大きな支障が出ないため、かなり進行するまで本人が異変に気づかないのが特徴です。

視野検査では「MD値」という指標で視野全体の障害の程度を数値化します。MD値は0dBが正常で、マイナスの値が大きくなるほど障害が進んでいることを示します。

段階 MD値の目安 日常生活への影響
初期 0〜-6dB 支障は少なく自覚しにくい
中期 -6〜-12dB 見えにくさを自覚し始める
後期 -20dB超 中心視野にも影響が出る

進行の速さは個人差がありますが、眼科では定期的な視野検査でMD値の推移を追跡し、進行速度(MDスロープ)を計算します。たとえばMD値が年間-0.5dBのペースで低下している場合、現在のMD値が-10dBであれば、中心視野に深刻な影響が出る-30dB程度に達するまでに約40年かかる計算です。このように、視野検査の数値で自分の進行速度を客観的に知ることができる点は、緑内障管理の大きな支えになります。

例外は急性緑内障発作

例外は急性緑内障発作

ここまで述べた「ゆっくり進む緑内障」は、全体の大部分を占める慢性のタイプです。ただし、短時間で視力を失うリスクがあるタイプが1つだけあります。それが急性緑内障発作(急性閉塞隅角症)です。

急性緑内障発作の症状と緊急性

急性緑内障発作では、眼球内の房水の排出路(隅角)が突然ふさがり、眼圧が通常の3〜4倍(40〜80mmHg)まで急上昇します。このとき、激しい目の痛み、頭痛、吐き気、視界のかすみといった症状が突然現れます。

この発作は放置すると最短で1日、長くても数日で失明に至る可能性がある緊急事態です。激しい頭痛と吐き気を伴うため、脳の病気と間違われて眼科以外を受診してしまい、治療が遅れるケースもあります。このような症状が突然起きた場合は、眼科を優先して受診してください。

急性発作と慢性緑内障の違い

慢性の緑内障(開放隅角緑内障・正常眼圧緑内障)は数年〜数十年かけて進行し、自覚症状がほとんどありません。一方、急性緑内障発作は突発的に強い症状が出るため、見逃されにくい反面、対応が遅れると取り返しのつかない障害が残ります。

急性発作のリスクが高いのは、隅角が狭い構造(閉塞隅角)を持つ方です。中高年の遠視の女性に多い傾向があります。眼科の検査で隅角の広さを調べることができるので、ご自身のリスクを把握しておくことが予防につながります。

参考:緑内障といわれた方へ|公益社団法人日本眼科医会

緑内障の進行を遅らせる治療法

緑内障の進行を遅らせる治療法

緑内障で傷んだ視神経を元に戻す方法は、現在の医療にはありません。しかし、眼圧を下げることで視神経への負担を減らし、進行を遅らせることは可能であり、これが緑内障治療の柱です。正常眼圧緑内障であっても、その方のベースラインからさらに眼圧を下げることで進行抑制の効果が得られます。

点眼薬(目薬)による治療

緑内障治療の第一選択は点眼薬です。現在10種類以上の薬剤があり、大きく分けると房水の排出を促進するタイプ(プロスタグランジン関連薬など)と、房水の産生を抑えるタイプ(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬など)があります。

1種類で十分な眼圧下降が得られない場合は、作用の異なる点眼薬を組み合わせます。複数の薬を使う場合は、点眼の間隔を5分以上空けることで薬の吸収効率を高められます。

点眼治療で最も大切なのは、毎日続けることです。緑内障は自覚症状が乏しいため「困っていないから」と点眼をやめてしまう方がいますが、点眼をやめると眼圧が再び上昇し、進行が再開します。緑内障の管理は長期戦であり、「症状がないから大丈夫」ではなく「症状が出ないように続ける」という意識が大切です。

参考:日本眼科学会緑内障治療|日本眼科学会

レーザー治療

点眼薬で眼圧が十分に下がらない場合や、閉塞隅角緑内障に対しては、レーザー治療が選択肢になります。

治療法 内容 主な対象
レーザー虹彩切開術(LI) 虹彩に小さな孔を開けて房水の流れ道を作る 閉塞隅角緑内障、急性発作の予防
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT) 線維柱帯にレーザーを照射し、房水の排出を促進する 開放隅角緑内障

レーザー治療は外来で実施でき、痛みもごくわずかです。ただし効果が経年的に減弱する場合があり、定期的な経過観察は引き続き必要です。

手術

点眼薬やレーザー治療で十分な効果が得られない場合は、手術を検討します。代表的な術式として、房水の新しい排出路を作る「線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)」や、線維柱帯を切開して房水の排出を改善する「線維柱帯切開術」があります。近年は極小の器具を用いるMIGS(低侵襲緑内障手術)も普及しつつあり、手術の負担は以前と比べて小さくなっています。

手術後も眼圧の管理と定期検査は継続します。手術で「治った」のではなく、眼圧をコントロールする手段が1つ加わったと考えてください。

早期発見で視野を守るためにできること

早期発見で視野を守るためにできること

緑内障の進行を防ぐうえで、治療と同じくらい重要なのが「早期に見つけること」です。

40歳を過ぎたら眼科検診を受ける

緑内障の有病率は40歳代から上がり始め、年齢とともに高くなります。一方で、初期には自覚症状がほとんどないため、症状が出てから受診した時点では視野障害がかなり進んでいるケースが珍しくありません。

人間ドックの眼底検査で「視神経乳頭陥凹拡大」を指摘されて初めて気づく方も多くいますが、人間ドックの眼底検査だけでは緑内障の確定診断はできません。確定診断にはOCT検査と視野検査が必要であり、これらは眼科を受診して初めて受けられる検査です。40歳を過ぎたら、症状がなくても一度は眼科で精密検査を受けることをお勧めします。

定期通院を続けることが最大の予防策

緑内障と診断されたあとは、1〜3ヶ月に1回の眼圧チェックと点眼処方、半年〜1年に1回のOCT検査・視野検査を続けるのが標準的な通院ペースです。視野検査の数値で進行速度を客観的に追えるため、現在の点眼で十分か、治療を強化すべきかを定期的に判断できます。

自覚症状がない時期こそ、検査を続けることの意義が大きくなります。「症状がないから大丈夫」と通院を中断すると、気づかないうちに視野欠損が進んでいたというケースが珍しくありません。緑内障の管理は数十年単位の長期戦になるため、通いやすい立地のかかりつけ眼科を見つけておくことが、結果として自分の視野を守る最善の方法になります。

参考:日本眼科医会緑内障といわれた方へ|日本眼科医会

緑内障の失明に関するよくある質問

緑内障の失明に関するよくある質問

緑内障と診断されたら車の運転はできなくなりますか?

緑内障の初期〜中期であれば、多くの場合は運転免許の更新に必要な視力・視野の基準を満たせます。ただし、視野欠損が進行して安全な運転に支障が出る段階に達した場合は、運転の中止を検討する必要があります。定期的な視野検査で自分の視野の状態を正確に把握しておくことが、安全な判断につながります。

緑内障は遺伝しますか?

緑内障そのものが直接遺伝する病気ではありませんが、家族(特に親・兄弟)に緑内障の方がいる場合、発症リスクは高くなります。遺伝的に視神経が眼圧に対して弱い体質を受け継ぐことがあるためです。家族歴がある方は、40歳を待たずに一度眼科で検査を受けておくと安心です。

目を使いすぎると緑内障は悪化しますか?

読書、パソコン作業、スマートフォンの使用などで目を酷使しても、それが緑内障の進行に直接つながるわけではありません。日本眼科医会も「日常生活は普通に営んでよい」としており、目を使うこと自体が緑内障を悪化させる心配は不要です。

まとめ

まとめ

緑内障の管理は数十年単位の長期戦です。同じ眼科に長く通い続けられるかどうかが、視野を守るうえで大きな分かれ目になります。視野検査の数値で進行速度を客観的に追えるため、「今、自分がどの段階にいるか」を把握しながら一緒に判断していける病気でもあります。

おぎくぼ南口眼科では、OCT検査・視野検査を含めた緑内障の診断と進行管理に対応しています。荻窪駅徒歩1分の通いやすい立地と、複数の眼科専門医によるチーム診療体制で、長期にわたる経過観察を無理なく続けられる環境を整えています。「これからずっと診てもらえるかかりつけ医を探したい」という方は、お気軽にご相談ください。

監修者情報

おぎくぼ南口眼科 院長 本田理恵

おぎくぼ南口眼科

院長 本田理恵

当院では、かすみ目や視力低下、疲れ目等の一般眼科診療はもちろん、お子様の斜視や弱視といった小児眼科診療等も行い、老若男女皆様の目の健康維持・増進に努めております。スタッフ一同丁寧でわかりやすいご説明を心がけ、かかりつけ医として長くお付き合いいただけるクリニックを目指しています。

経歴

  • 埼玉医科大学医学部卒業
  • 東邦大学大橋病院眼科
  • 東京歯科大学市川総合病院眼科
  • 東京歯科大学水道橋病院眼科を経て平成25年 おぎくぼ南口眼科 開院

資格・認定

  • 日本眼科学会 専門医
  • 日本眼科手術学会 会員
  • 日本白内障屈折矯正手術学会 会員