
日本人に多い慢性タイプの緑内障では、初期に自覚症状がほとんど出ません。「見え方に困っていたわけではなく、たまたま検査で見つかった」というのが、診断された方によくある経過です。なぜ気づけないのか、そして例外的に強い症状で気づける「急性緑内障発作」とはどう違うのか。仕組みから順に整理します。

緑内障の初期症状に自分では気づけない理由

「初期症状」と聞くと、何かしらのサインが出るはずだと思うかもしれません。しかし緑内障の厄介な点は、初期にはっきりした自覚症状がほぼ出ないことにあります。
視野の欠けは周辺から始まることが多い
緑内障で最初に障害を受けるのは、視野の周辺部分です。人は普段、視野の中心で物を見ているため、端のほうが少しずつ欠けていても「見えにくい」とは感じません。読書もスマートフォンの操作もいつも通りできるため、目の異常が起きているという実感がわかないのです。
片目の欠損をもう片方の目が補ってしまう
仮に片目の視野に欠けが出始めていても、両目を開けて生活しているとき、もう片方の目がその欠けた部分を補います。脳が両目からの情報を統合して「見えている」映像を作るため、片目だけの異常は自覚しにくい構造になっています。これが、緑内障が「沈黙の病気」と呼ばれる大きな理由のひとつです。
進行が非常にゆっくりで変化に気づけない
慢性の緑内障は、数年から十数年かけてゆっくりと視野が狭くなっていきます。1日ごと、1ヶ月ごとの変化はごくわずかで、昨日と今日の見え方に差を感じることはまずありません。「急に見えなくなった」のではなく「いつの間にか見えなくなっていた」というのが、多くの方が経験する経過です。
例外として「急性緑内障発作」は症状で気づける

ここまで「初期症状はほぼない」とお伝えしてきましたが、これは慢性タイプの緑内障の話です。急激に眼圧が上昇する「急性閉塞隅角緑内障」(急性緑内障発作)は例外で、突然の強い症状で気づくことができます。主な症状は次のとおりです。
- 激しい目の痛み・頭の痛み
- 吐き気・嘔吐(消化器症状のため胃腸の病気と間違われることがある)
- 視界が急にかすむ・霧がかかる
- 電球や信号の周りに虹のような輪が見える(虹輪視)
- 目の強い充血
治療が遅れると短期間で失明に至ることもある緊急疾患です。「初期症状」というより「すぐに眼科または救急外来を受診すべき緊急サイン」と捉えてください。
頭痛と吐き気を伴うため、目の症状が前面に出ないと別の原因と考えてしまうことがあります。これらの症状が突然出たときは、必ず「目の症状もある」ことを医療機関に伝えてください。
緑内障の初期に起きていること

自覚症状がないからといって、目の中で何も起きていないわけではありません。緑内障の初期段階では、視神経に構造的な変化が始まっています。
視神経の線維が少しずつ減っていく
目の奥には約100万本もの視神経線維が束になって脳へ信号を送っています。緑内障では、この線維が少しずつ減少していきます。線維は一度失われると再生しないため、減った分だけ「見える範囲」が狭くなります。
ただし線維の減少がある程度まで進まないと、日常生活の中で視野の変化として認識できるレベルにはなりません。
検査をすれば初期でも異常がわかる
自覚症状がなくても、眼科の検査では初期の変化を捉えることができます。OCT(光干渉断層計)検査では視神経線維の厚みをミクロン単位で計測できるため、自覚症状が出る前の段階で視神経の変化を検出できるようになっています。視野検査では「どの範囲が見えていないか」を記録するため、自分では気づいていない視野の欠けが明確に浮かび上がります。

眼圧が正常でも緑内障になる

「緑内障は眼圧が高い人の病気」というイメージを持っている方は多いかもしれません。しかし日本人の緑内障には、眼圧が正常範囲(10〜21mmHg)にあるのに視神経が障害される「正常眼圧緑内障」が非常に多く見られます。
日本緑内障学会の多治見スタディでは、40歳以上の緑内障有病率は5.0%で、そのうち開放隅角緑内障の大部分が正常眼圧緑内障でした。つまり、眼圧の検査だけでは緑内障を見逃す可能性があるということです。健康診断で「眼圧は正常です」と言われたからといって、緑内障の心配がないとは限りません。
眼圧測定に加えて眼底検査やOCT検査を受けることが、正常眼圧緑内障の発見には欠かせません。
緑内障のリスクが高い方の特徴

すべての人に緑内障のリスクはありますが、以下に当てはまる方は特に注意が必要です。
| 該当する条件 | リスクが高まる理由 |
|---|---|
| 40歳以上 | 年齢とともに有病率が上昇する。70歳以上では約10人に1人 |
| 血縁者に緑内障の方がいる | 遺伝的な要因が発症に関与する |
| 強度近視(-6D以上)がある | 眼球の構造的な特性から視神経が障害を受けやすい |
| 眼圧が高めと指摘されたことがある | 眼圧が高いほど視神経への負担が増す |
多治見スタディの年代別データでは、40歳代の有病率が2.2%であるのに対し、70歳代では10.5%まで上昇します。年齢を重ねるほどリスクが高まるため、40歳を過ぎたら症状がなくても眼科検診を受けることが早期発見の基本です。
緑内障を早期に見つけるための検査

緑内障の発見には複数の検査を組み合わせることが重要です。ひとつの検査だけでは見逃しが起こりうるため、眼科では以下の検査を総合的に行います。
眼圧測定で目の内圧を確認する
眼球の内側の圧力を測定します。正常値は10〜21mmHg程度ですが、先述のとおり正常範囲内でも緑内障は起こりえます。「高いか低いか」だけでなく、経年での変動を追うことにも意味があります。
眼底検査で視神経乳頭の形を観察する
目の奥にある視神経の出口(視神経乳頭)を直接観察する検査です。緑内障では視神経乳頭のくぼみ(陥凹)が正常より大きくなるため、この形状の変化が発見の手がかりになります。健康診断の眼底検査で「視神経乳頭陥凹拡大」と指摘された方は、精密検査を受けることをおすすめします。
OCT検査で視神経線維の厚みを測る
OCT(光干渉断層計)は、網膜の断層画像を撮影する検査です。視神経線維層の厚みを数値で示すため、「線維が正常より薄くなっているかどうか」を客観的に判定できます。視野検査で異常が出る前の段階で変化を検出できる場合があり、緑内障の早期発見において最も有用な検査のひとつです。
視野検査で見えない範囲を確認する
一点を見つめた状態で、周辺に光を点滅させて「見えるか、見えないか」を記録します。検査には片目ずつ20〜30分程度かかりますが、視野のどの部分にどの程度の欠損があるかを詳細に把握できます。経過観察でも同じ検査を定期的に行い、視野の変化が進んでいないかを確認します。
緑内障の初期症状に関するよくある質問

緑内障は自分でセルフチェックできますか?
片目ずつ周囲を見渡してみて、「何か欠けている場所がないか」を確認する方法はあります。ただし初期段階の微細な視野欠損を自分で検出することは難しく、セルフチェックだけでは安心できません。セルフチェックはあくまで日常的な意識づけであり、精密な診断には眼科での視野検査やOCT検査が必要です。
健康診断で「眼底検査」を受けるにはどうすればいいですか?
自治体の特定健診や職場の健康診断では、眼底検査が含まれていない場合があります。そのような場合は、健診とは別に眼科を受診して「緑内障の検査を受けたい」と伝えてください。眼圧測定・眼底検査・OCT検査はいずれも保険適用で受けられるため、3割負担の方であれば数千円程度が目安です。
緑内障と診断されたら必ず失明しますか?
いいえ。早期に発見して治療を開始すれば、多くの方は視野を維持しながら日常生活を送ることができます。緑内障の治療は主に眼圧を下げる点眼薬から始めますが、治療によって視野の悪化を遅らせることで、生涯にわたって不自由なく生活できる方が大半です。
まとめ

緑内障の初期症状は「症状がないこと」そのものだと言えます。視野の欠けは周辺から静かに始まり、両目で補い合うことで自覚が遅れ、進行もゆっくりなため日々の変化に気づくことはまずありません。だからこそ、症状がないうちに眼圧・眼底・OCT・視野の検査を組み合わせて受けておくことが、視野を守るうえでの最大の武器になります。
おぎくぼ南口眼科では、眼圧測定・眼底検査・OCT検査・視野検査を組み合わせた緑内障の精密検査と長期の経過観察に対応しています。複数の眼科専門医が連携して点眼治療からレーザー治療、日帰り手術まで一貫して提供していますので、家族歴がある方、強度近視で気になる方、健康診断で「視神経乳頭陥凹拡大」を指摘された方は、一度お気軽にご相談ください。

監修者情報
おぎくぼ南口眼科
院長 本田理恵
当院では、かすみ目や視力低下、疲れ目等の一般眼科診療はもちろん、お子様の斜視や弱視といった小児眼科診療等も行い、老若男女皆様の目の健康維持・増進に努めております。スタッフ一同丁寧でわかりやすいご説明を心がけ、かかりつけ医として長くお付き合いいただけるクリニックを目指しています。
経歴
- 埼玉医科大学医学部卒業
- 東邦大学大橋病院眼科
- 東京歯科大学市川総合病院眼科
- 東京歯科大学水道橋病院眼科を経て平成25年 おぎくぼ南口眼科 開院
資格・認定
- 日本眼科学会 専門医
- 日本眼科手術学会 会員
- 日本白内障屈折矯正手術学会 会員